人は、青の首に、自分の帯を投げかけた。そして青は、坑夫達の一群の背後に、全く力のない足どりでよろよろと引かれて行った。それは、牽《ひ》かれているというより、曳《ひ》き摺《ず》られている形だった。青は、二歩歩いては立ち停《ど》まり、三歩歩いては立ち停まるのだった。
「青! 後から押してやろうか?」
或る者はそう言って、青の背後から、両手をかけて押し上げたりした。併し青は、その人間を蹴《け》るでもなく、斜坑の斜面を押し上げられて行った。
「おい! 青の頭から、何か冠《かぶ》せなくちゃ、駄目だよ。何十年も坑内にいた馬を、明るいところに引っ張り出すと、すぐ死んでしまうんだっていうからなあ。」
古参の坑夫が注意した。若い坑夫は半纒《はんてん》を脱《ぬ》いで青の頭から引っ被《かぶ》せた。
*
地上には初夏の陽光がぎらぎらと降り注いでいた。眼を射るような光線だった。
炭坑事務所から二十間ばかり離れて、三四本の大きな榎《えのき》が立っていた。その下に、三匹の馬が繋がれていた。その三匹の馬は、坑夫達に引かれて坑内から出て来た青の姿を見ると、首をあげて(ほほほ!)と嘶いた。
青はす
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