ると、坑夫の手に引かれていたにもかかわらず、立ち停まった。
「青! なんだって停まるんだい? 青! 青!」
併し青は歩かなかった。最早、青は今までの青では無くなっていた。首を上げ、耳を欹《そばだ》てて、その耳に全身の感覚を集めようとしていた。
そのとき、榎の下から、また、馬が嘶いた。その次の瞬間、青は、坑夫の手から手綱《たづな》[#「手綱」は底本では「手網」]を奪って駈《か》け出した。頭から掩いをされたまま一散に駈け出した。
「馬鹿野郎! 誰だあ? 青を引っ張り出して来たのあ? 気違いになるのきまっているじゃないか?」
誰かが事務所の方から怒鳴った。青はその辺を滅茶苦茶に駈け廻って、榎の下に嘶いている馬達を、探そうとしているのだった。
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(附記)長い間を坑内に封じていた馬を、地上の明るい世界に引き出せば、すぐ死んでしまうか、気違いになってしまうそうである。またクロポトキンは「相互扶助論」の中で、シベリヤの野に放牧されている馬が、嵐に襲《おそ》われると、谷底の何処《どこ》かへ、申し合わせたように、一カ所へ一緒になるものであることを言っている。
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