いて、思い出したようにしては、また噛むのだった。
青は本当に生きているのか死んでいるのかわからなかった。それは襤褸《ぼろ》で拵《こしら》えた馬のようでもあった。硝子《ガラス》玉の眼を嵌《は》め込んだ剥製《はくせい》の馬のようでもあった。
「俺達も、年を取れば、青のようになるんだろうなあ。青! 俺達も今にこの坑《あな》の中でお前のようになるんだよ。お前よりももっともっと惨めになるかも知んねえ。」
「それはそうよ。人間も馬も変わりがあるもんじゃねえ。なあ青!」
坑夫達はいつもそんなことを言うのであった。
*
青が養われている場所には、夜になると、若い働き盛りの馬が二三匹|繋《つな》がれた。
若い馬は、ぴしりっぴしりっと尾を振った。虻《あぶ》がいるのでも蚊がいるのでもない。ただぴしりっぴしりっと無暗《むやみ》に尾を振った。人が通りかかると、首を高く持ち上げて(ほほほ!)と嘶《いなな》いた。脚《あし》を上げては石炭の破片《かけら》を踏み砕《くだ》いた。何をやっても、がつがつとそれを喰った。明るい世界から引き込まれて来たばかりの馬は、全身が感覚で、全身が力だった。
青は、
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