に養われていた。十何年間を、地の底の暗闇《くらやみ》の中に働いていたのであったが、最早すっかり老衰してしまって、歩くことさえも自由ではなくなっていた。併し、青は、坑内に働いている誰からも愛されていた。惨《みじ》めな老人を労《いたわ》るようにして労られていた。
「青! なんとしたことだい。青! 少し元気出せよ。ほう! ほう! ほら!」
坑夫達はそんな風に言って、そこを通りかかる度毎《たびごと》に、青の鼻先へ触《さわ》ってやるのだった。併し青は、黒い鼻先をほんの微《かす》かに蠢《うご》めかすだけであった。感覚の一切を、過去の生活の中へ置き忘れて来てしまったようにして、森の中の沼のような暗い眼を向けているのだった。その眼が果たして見えるのか見えないのか、ただじっと、暗い空間の一点に向けて据《す》えているのだった。
「青! 本当にお前はどうしたのよ。おう? 元気がなくなったなあ。青! ああ、俺の飯が残っているから、お前に少しやろう。」
併し青は、坑夫達がそうしてくれる飯も、ほんの少しきり食わなかった。それも、一度口の中に入れたものを、思い出したようにしては噛《か》み、またしばらくじっとして
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