、他の池へ移してやるってことも出来るけど、わたしなんかの場合は、そうはいかないんですものね?」
「一体、あなたは、どのぐらいあれば、なんにもしないで食って行かれるんです?」
「あら、わたし、そんなつもりでいったんじゃないのよ。わたし、近ごろ、あなたから頂くお金だけで、どうにかやっているんですもの。ほんとにわたし、近ごろあなたより他に誰にも来てもらわないようにしているんですもの。だからこそ、だんだんよくなって来るのよ。」
「じゃ、一人ぐらいだったら、身体《からだ》を痛めるようなことが無いわけなんだね?」
「そりゃ、そうよ。」
「僕は、組合の仕事があったりして、今すぐは、結婚が出来ないんでね。」
吉田はそういってまた溜め息をついた。
六
夏になると、彼女は、彼のために浴衣《ゆかた》を拵《こしら》えて置いたりした。
「こんなんですけど、寛《くつろ》げるかと思って、自分で縫って見たの。それに、他所《よそ》へこんなのを頼むとうるさいから。」
「おお、これはいい。」
吉田は、これまでに経験したことの無い情緒的な雰囲気を感じながら、それを着て畳の上へ横になった。
「ぐっすりお休み
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