で蹂躪《じゅうりん》された肉体の、修整であり保養であった。そして彼女は健康な肉体にかえり次第、これまでの生活から足を洗ってしまいたいと考えていた。しかし、彼女の持って来た資力は、そんなに長い逗留を支えてはくれなかった。彼女は、目的のところまで行き届かぬうちに、その温泉宿から立ち去らなければいけなくなったのであった。
彼女はしかし、その温泉場に未練を持った。この機会に、どうしても以前の肉体に復《かえ》りたいと考えたからである。そこで彼女は、再び以前の職業に戻って、生活費を嫁ぐ傍らに、肉体の恢復に努めようと計画したのであった。
しかし、彼女は再びその生活から脱《ぬ》けることが出来なくなった。彼女の肉体は容易に恢復してはくれないからであった。それは例えば、葉を整えたと思えば蹂躪され、再び葉を整えかけると、再び蹂躪される路傍の雑草のような存在であったから。
五
吉田機関手は、終列車を牽《ひ》いて来るごとに、彼女の家を訪ねて行った。それが殆んど決定的に五日目であった。彼女もその日には、他の客を避けるようにして彼の来るのを待った。菓子などを整えて置いたりした。
「ここの温泉、私
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