話さまで御座いますよ。近頃は。」
 病気で寝ていた房枝の母親が玄関|傍《わき》の三畳から出て応待した。併し婆さんはそれどころでないという様子だった。
「私んとこではまあ、大へんなことになったんですよ。私が、房ちゃんに従《つ》いて行って、ちょっと留守にしたばかりに、全く飛んでもないことになったんですよ。ほんとに、ほんとに……」
「どうしたの? 小母さん!」
 房枝は帯を締めながら玄関の方へ出て行った。
「全く、こんな馬鹿なことってあるもんかね。自分の家を空にして置いて、他人《ひと》の家の留守をしてさ。それで泥棒に這入《はい》られるのも知らずにいるなんて……」
「泥棒が這入ったんですか?」
「泥棒が這入ったの? 小母さん。」
「なんか知らないけど、ちょっとあけて置く間に、長火鉢の下へ隠して置いたお金を、房ちゃんをお世話してもらった分を、みんな持って行ってしまったんですよ。」
「あら! そうですか。それはそれは……」
「房ちゃんと一緒に行きさえしなければ、なんでもなかったのに、本当に困ってしまう。あの人も私が出れば、私の家が空になるってことを知っているくせして、私に、自分の家の留守をさせるな
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