街底の熔鉱炉
佐左木俊郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小母《おば》さん
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)玄関|傍《わき》の三畳
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》る
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一
房枝の興奮は彼女の顔を蒼白にしていた。こんなことは彼女にとって本当に初めてであった。その出張先が自分の家と同じ露地の中だなんて。彼女は近所の侮蔑的な眼が恐ろしかった。しかもそれが同じ軒並みのすぐ先なのだから。彼女はすぐそのまま自分の家に帰って行く気はしなかった。彼女は日頃から親しくしている小母《おば》さんの家へ裏口から這入《はい》った。小母さんの家は、雇われて行った家の一軒置いて隣になっていた。小母さんは内職の造花を咲かせていた。
「小母さん! お隣のお隣は、何を職業《しょうばい》にしているの?」
「お隣のお隣? 楽そうだろう? 泥棒をしているんだって。」
「泥棒? 厭《いや》あな小母
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