さん! そんな職業があるの? 泥棒だなんて……」
房枝は微笑《ほほえ》んで袂《たもと》で打つ真似《まね》をした。
「そりゃ、不景気だもの、何だって、出来ることはしなくちゃ。泥棒だって何だって、食って行ける者はいいよ。」
「でも、少しおかしかない? 泥棒だなんて……」
「職業《しょうばい》なら、何もおかしいこと無いじゃない? 食って行くためなら、どんなことだって、しなくちゃならない時世なんだもの。」
真面目《まじめ》な顔で小母さんは造花を咲かせ続けた。紫の花。褪紅色《たいこうしょく》の蕾。緑の葉。緋《ひ》の花。――クレエム・ペエパァの安っぽい造花であった。
「それはそうだけれど、そんなことをしていて掴まらないのかしら?」
「そこが職業《しょうばい》だもの。掴まってばかりいたら、職業にならないじゃないの。小父《おじ》さんなんかも(掴まらなけりゃあ、やるがなあ……)って言っているんだけど、小父さんのような野呂間《のろま》なんかにはとても出来やしないんだよ。」
「でも、随分変な職業《しょうばい》もあるもんね。そりゃ、わたしの職業なんかも、随分変なものには違いないけど……」
「働いてお金を取
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