んて……」
「本当だわ。あんまりだわ。」
「私は、埋め合わせをしてもらわなくちゃ。言って見れば、あの人と、房ちゃんのためなんだから、房ちゃんとあの人とに。埋め合わせてもらわなくちゃ……」
「わたしにも? 小母さん!」
「だって、房ちゃんなんか、半日も働きに行きゃあ、きっと五円にはなるんだもの、それぐらいのことはしてくれたって、いいじゃないかね? 私が好きで房ちゃんに従《つ》いて行ったわけでもあるまいし、それぐらいのことをしてもらわなくちゃ、全く、こっちが立ち行かなくなってしまうんだもの……」
 婆さんは玄関で立ったまま喚《わめ》き続けた。

     六

 房枝が今日は小母さんの家の玄関の方から這入って来た。
「小母さん! あのお婆さんのところで、泥棒に這入られたんですって。」
「泥棒に?」
 小母さんも流石《さすが》に眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》るようにした。
「わたし、あの人じゃないかと思うんだけど……」
「あの人って? ――あ、あの人か。そうだね。そうかも知れないよ。屹度《きっと》あの人だよ。――あの人のことだもの、少し余計に取られ過ぎたと思えば、それ
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