う?」
婆さんは罵倒《ばとう》を始めた。すると、間もなく彼が帰って来た。
「どこへ行っているんですね? 一緒に来いって言うから、こうして一緒に来ると、どこへ行っているんだか、いつまで経ったっても帰って来やしないんだもの、全く呆れてしまう。」
婆さんは続けた。
「いや、どうもすみません。ちょっと出なければならない用事があったもんだから、一人で来たんじゃ、誰もいないところで待っているのが大変だろうと思って……」
「なんてことだね。馬鹿馬鹿しい。じゃ、留守をさせられたわけね。自分の家を空《から》にして置いて、他人《ひと》の家の留守だなんて、馬鹿馬鹿しいにも程があるよ。――じゃ、別に用事はないんだね?」
「あ、別に……」
「ああ、本当に、馬鹿見たよ。」
婆さんは喚《わめ》きながら帰って行った。彼は房枝の傍《そば》へどっかりと坐った。
五
房枝は自分の家に帰って肌を脱いで休んでいた。そこへ婆さんが喚《わめ》きながら飛び込んで来た。婆さんは額《ひたい》に青筋を立てて興奮していた。
「房ちゃん! 房ちゃん! 帰ったかね?」
「あら! 小母さん。さあ、おあがりになって。本当にお世
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