かそんなところがあるそうじゃないの?」
「掏摸のことは知らないけど、併し泥棒会社だなんて、そんなものはないだろうよ。個人経営なんだよ。例えあったって、あの人はそんなところへ勤めて働く人じゃないよ。あの人はとても物事のわかっている人なんだもの。――つまり、そんなところへ関係すると、働きもしない奴に、頭を刎《は》ねられるだろう? それが馬鹿らしいというのさ。あの人に言わせると。――ねえ、房ちゃんも、あんな皺苦茶婆《しわくちゃばあ》さんに頭を刎ねられているよか、自分で、個人経営にしちゃったらどう? 五割も六割も頭を刎ねられて、馬鹿馬鹿しいじゃないの?」
「馬鹿馬鹿しくたって、わたし、そんな交渉は出来ないんだもの、仕方がないわ。――でも、いくら職業《しょうばい》だからって、随分変なものね。雇いたいっていう人があるって、お婆さんが伴れて行ってくれるから、どこへ行くのかと思って従《つ》いて行って見たら、自分の家の前を通ってさ、あの家じゃないの? ――いくらなんでも、自分の家の近所へ行くのだけは厭だわ。」
「だから、何もかも、自分でやったらよかない? 呼ばれて行ったとき、呼んでくれた相手の人がいい人
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