一緒に伴《つ》れて来るといい。明後日来るとき。」
「今日ぐらいの時間でいいんですか?」
「ああ、いいよ。」
 彼は畳の上にばたりと腕を匐《は》わした。
「房枝さんは、実に綺麗な手をしているね。」
 彼は言いながら房枝の手を執《と》った。

     三

 房枝は雇われて行った家を裏口から出た。そして裏口から小母さんの家に這入《はい》った。小母さんはいつものように濃彩色《のうさいしき》のクレエム・ペエパァを切っていた。
「ねえ。小母さん! 泥棒でも、なんかこう、泥棒の勤める会社、というようなものがあるのかしら? 少しおかしいわね。」
「泥棒の会社? そんな馬鹿なものがあるもんかね。」
「だってね。小母さん! あの人はね。そら、お隣のお隣の、あの人は……」
「今日もあそこだったの?」
「そうよ。――ねえ。小母さん! あの人は、出張して来たって言ったわ。だから、会社のようなところでもあるのかと思って。」
「あの人の出張って、どこか遠くへ泥棒に行ったことを言っているんだよ。」
「あら! それを出張っていうの? なかなか洒落《しゃれ》ているのね。――でも、小母さん、掏摸《すり》なんかには、なん
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