「では、これを置いて来ますから。」
 房枝は箒《ほうき》を片付けてから、身繕《みづくろ》いをして二階へまたあがって行った。彼女は男から三四尺ほど離れて坐った。そして薄く白粉を掃いた顔をうちむけた。
「房枝さん! ――房枝さんって名だったね? 一昨昨日《さきおととい》、あの婆さんから、幾らもらったかね?」
「五円でしたわ。」
「五円? じゃ、儂《わし》が渡した半分も、おまえの手には渡ってやしないんだね。――本当に五円だけなんだねえ?」
「え。本当ですわ。」
「あの婆め!そんなぼり[#「ぼり」に傍点]方ってあるもんか。――儂《わし》は出張して来たばかりで、手許《てもと》に少し余計にあったもんだから、拾円でいいというのを、おまえに余計やってもらおうと思って、拾五円やって置いたんだ。それを五円きり渡さないなんて……」
 憤慨したようにして彼は言った。
「房枝さん! どうだ! これから、あの婆さんを仲に立てないで、直接にしようか?」
「でも、紹介してもらっていて、そんなことしちゃ……」
「悪いことなんかあるもんか。――じゃ、とにかく、今度来るとき、儂が一緒に来るように言ったからって、あの婆さんを
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