……」
青年は押し入れから出て来てそこへ坐った。
「一体、何を掻《か》っ払《ぱら》ったんだね?」
「え? 掻っ払いじゃありませんよ。まさか、そんなことまではしませんよ。」
「泥棒したんじゃないと言うのか?」
「宣伝をしていたんです。われわれ失業者、どうにもならないもんですから、ビラをまいていたんですよ。そのうちにビラが無くなったんで、僕は本部ヘビラを取りに行って来たんです。来て見ると、同志は皆んな検束されていて、僕がそこへ帰って来たもんだから……」
「食えないんなら、そんなことをするより、持っているもののところへ行って、取って来たら、どんなもんだね。」
「泥棒ですか?」
「まあ、泥棒だね。」
「併し、失業者がみんな全部泥棒になったって、社会の組織は変わらないですからね。社会の組織が変わらない以上、失業者は後《あと》から後からと出て来て、それがみんな泥棒になったら、いったい、社会はどうなりますかね?」
「じゃ、食えないものでも、泥棒しちゃ、いけないと言うのかい?」
「さあ? まあ、これを読んでおいて下さい。僕は急いでいますから。――働きたいけれども、仕事が無いから、食って行くためには泥
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