、自分がそれを行動する場合に、自分は犠牲になってまでそれを実行するだけの熱の持てることでしょうか? それだけの価値のある手段でしょうか? 自分が犠牲になって……」
「そりゃあ、きみ! それだけの価値があるさ」
賢三郎は真面目に顔を緊張させて言った。
「……たとえばぼくでもいい。ぼくならぼくが一人犠牲になることで、五十人も六十人もの人間の生活を保証することができたら、それでいいじゃないかね。五十人、一家族を平均三人として、百五十人からの人間の生活を保証することができたら……」
「しかし、しかしですね、いまのような場合に旦那《だんな》がやられたとしたら、あなたはその職工側に対して好意を持つことができますかしら?」
「好意?」
「それは、あなたでなくてもいいんですがね。便宜上あなたを例にして、前の工場主が暴力でやられているのに、その子供なり養子なりがその工場の後継者となった場合に、うまく折り合いがつくでしょうか? かえって、反感から悪い結果になりはしないでしょうか?」
「きみはある局部だけを見ているんだ。その工場の職工たちが暴力で勝って、そのために犠牲者を出して、そのうえその工場の人たちは
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