仮装観桜会
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)靄《もや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)工場主前田|弥平《やへい》氏
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)身を※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いた
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靄《もや》! 靄! 靄!
靄の日が続いた。胡粉色《ごふんいろ》の靄で宇宙が塗り潰《つぶ》された。そして、その冷たい靄ははるかの遠方から押し寄せてくる暖かいものを、そこで食い止めていた。食い止めて吸収していた。
靄の中で桜の蕾《つぼみ》が目に見えて大きくなっていった。人間の感情もまた、その靄の中で大きくなっていく桜の蕾のようなものだ。街の人たちはもう花見の話をしていた。
靄が濃くなり暖かくなるにつれ、桜の蕾がその中でしだいに大きくなっていくように、人間の感情もまたその雰囲気の中でしだいに膨張する。前田《まえだ》鉄工場の職工たちの感情もまたそうだった。従前どおりに続いていく雰
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