ら、彼等は、炎天の道路に投げ出された蛙の子のようになって了わねばなるまい。
其日の午後、モセ嬶は、五六日使わずに置いたので、少し赤い錆の噴き出た坏を担いで、山芋のありそうな籔を、次から次と覗いて歩いた。しかし、夕方まで籔をかきまわしたが、医者の家に持って行けそうな山芋は、一本も掘れなかった。
モセ嬶は、がっかりして、泥のついた手で水洟《みずばな》をこすりながら、鼻の下を黒くして、「なじょにして爺様を喫驚《びっくり》させべ?」と考えながら、短い青草の生えている細い山路を上って行った。すると、路傍に、大きな黒い蛇が横になっていた。モセ嬶は、喫驚して、杖にして居た坏を握り直して、蛇を追いたてた。
黒い蛇は、どんなに追っても逃げない。彼女は坏を前に突出して、おそるおそる近寄って見た。するとそれは、水分を含んで、黒土に染った太い手綱の切端であった。彼女はちょっと恵まれたような気がした。
「神様の、おなさけだべちゃあ! あきよ嬶様が、喫驚しさせっと、瘧は癒るとて教《お》せだっけ。この手綱の切端で喫驚しさせで……」と呟いて、モセ嬶は、その黒く汚れた手綱の切端を引摺って、細い山路を、短い青草を踏
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