佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)坏《つくし》を

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)ろくな芋|無《ね》えがった

[#]:入力者注 主に傍点の位置の指定
(例)[#この行は行末より1字上がり]
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 福治爺は、山芋を掘ることより外に、何も能が無かった。彼は毎日、汚れた浅黄の手拭で頬冠りをして、使い古した、柄に草木の緑色が乾着いている、刃先の白い坏《つくし》を担いで、鉈豆煙管《なたまめきせる》で刻《きざみ》煙草を燻しながら、芋蔓の絡んでいそうな、籔から籔と覗き歩いた。
 叢の中を歩く時などは、彼は、右手に握った坏で、雑草を掻分けながら、左の手からは、あまり好きでも無い刻煙草を吸う鉈豆煙管を、決して離した事が無かった。ことに、芋蔓の絡んでいそうな籔の中を覗き込む時などは、眼をぱちくりさせながら、頬を丸くふくらまして、しっきりなしに煙を吐いて、先ず芋蔓よりも何よりも、蛇が居るかどうかを確かめるのである。彼は、山に生活する者にも似合わぬ程、蛇をおそれた。
 それでもどうかすると、煙草の煙などには驚かない図々しい蛇のため
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