に、折角見つけた芋蔓まで奪われて了うことがあった。どんなに立派な山芋の蔓が見つかっても、もし其処に蛇が居たら、心臓が破裂する程はずんで来て、煙草を燻しながら逃出すのである。蛇を追払って、山芋を掘ると云うことなどは、彼には想像も出来ない。
 そして、たとえ蛇に邪魔されずに掘ったにしたところで、山芋を掘ったのでは、日に一円とはならなかった。それに、ぽかぽかと暖くなって沢山掘れそうな日などには、何かの祟りかと思われる程、何処にもかくにも蛇が居て、唯煙草代を損して帰って来ることがあってから、随って、彼とモセ嬶《がが》との生活は随分酷めなものであった。
「本当《ふんと》に、蛇こなど、なんだべや、男でけづがって……」
 モセ嬶は口癖のように言って貶《けな》した。
 彼も、山に蛇さえ居なかったならと、どんなに蛇の存在を恨んだか知れない。
 彼は雨の降る日に山芋掘りをしたのが原因で、間歇熱に冒されて医者を招んだ。
 その医者は、大変に山芋の好きな男であったが、福治爺等は、掘った山芋を、値のよくなるまで、売らずに、溜めて置ける程に、生活にゆとりのある身分ではなかったので、医者に山芋の御馳走をすることは出
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング