来なかった。それに、金の出し方も尠なかったので、医者は二度目に招んだ時には来なかった。医者を呼びに行ったモセ嬶はひどく悄気《しょげ》て帰って来た。
「なじょでがす? 爺様《じんつぁま》の瘧《おこり》は?」
 斯う訊いて、彼女の道伴れになったのは、野山から柴を取って売ったり、蕨《わらび》を取って売ったりして生活している、あきよ嬶であった。
「なんぼ頼んでも、医者が来てけねえでしさ。」
 首垂《うなだ》れてモセ嬶は言った。
「あの医者は、銭ばかりほしがって、銭が少しだと、来てけねえもね。」
 あきよ嬶は、赤く爛れた眼を、繁叩《しばたた》きながら言った。
「ほでがすちゃ。俺《おら》、今日頼みさ行ったら、――俺はあ、おめえ達の掘った山芋を、高けえ金で買って食っているんだ。おめえ達も、あたりめえの金を出してけねえけれえ俺は行かれねえ、俺は行かれねえ。――って、言われしたちゃ。」
「ほんではほら、山芋でも持って行ったらいがべちゃあ。俺家の庄五郎が、頭痛みをした時も、蕨を少し持たせでやったら、毎日来てけしたで……」
 医者が、モセ嬶の、商人に売って行く山芋が、大変高いものだと思うのも、あきよ嬶のくれ
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