た蕨を欣《よろこ》んだのも、決して無理なことではない。モセ嬶が、二拾銭で売って行く山芋を、商人は医者の家へ五拾銭で売っている。また蕨にしても、――医者は値段を考えて欣んだ訳ではあるまいが。
「ほんでは、俺も、山芋でも持って行くべえかな。」
 彼女たちには、医者が蕨を貰った時の、情に動かされた心理が判らないらしい。彼女等は余りに物質的に考えているようだ。
「ほんでもね、モセ嬶様。瘧だごったら、医者さかげる程のごどでもがすめえで、瘧ずもの、うんと仰天《びっくり》させっと、直んぐに癒るもんだどみっしさ。」
「ほうしか。なじょがして、医者さかけねえで癒し度がすちゃ。ねえ、あきよ嬶様。医者も、随分なもんでがすぞ。人助けだなんて言ってで……俺家の爺様が、五日もかかって取る銭を、一っぺんに取って行って、それで足りねえどしゃ。なんぼ掘れるもんだが、自分で掘って見ればいいんだ。注射のような訳に、とっても行ぐもんでねえから……人の身体には、蚤か虱しかいねえげっとも、山には蛇も居んのだし……」とモセ嬶が言った。
 モセ嬶は、どうかして福治爺の間歇熱を癒さなければ、いけないと思った。このままで、一週間も続いた
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