盛った毒をまず自分が呷《あお》らねばならないような立場を、彼は胸を抉《えぐ》り取られるように感じた。罪に立とう! 彼はいっさいのものに対して目を瞑ろうとした。そして、そのあとから彼の純情が勃然《ぼつぜん》として湧《わ》き上がってきた。彼女とともに罪に立とう!
駐在巡査が鶴代に何か言って、若い検事の前に連れてきた。随行の書記が帳面を開いた。署長もポケットから手帳を出した。
「あなたは妊娠していたというのか。それは本当かね?」
若い検事はとくに、あなたという敬語を使って言った。そして彼は目を瞑るようにした。何か恐ろしい言葉が返ってくるような気がしたからであった。しかし、彼女はなにも答えなかった。
「何もかも、こっちの訊くことに対しては正直に答えないと、あなたのためにならないから。……妊娠していたのは本当かね?」
「はい、本当でございます」
彼女の答えはそうだった。彼は驚いたように目をど瞠《みは》った。彼は、おまえは自分が知っているはずじゃないか? という彼女の言葉を、目を瞑るようにして待っていたのだった。
「そして? 妊娠していたのを、それからどうしたかね? その子供を産んだのかね?
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