」
「産みました」
「産んだ子供は?」
彼は目が眩《くら》むような気がした。よろよろと倒れそうになるのを、全身の力でようやく踏み堪《こら》えていた。
「その産んだ子供を?」
「…………」
彼女は彼の顔を見詰めながら、唇を噛《か》み締めるようにしてぶるぶると身体を顫《ふる》わした。彼は目を瞑るようにしてもう一度繰り返した。
「その子供は?」
「産むとすぐ殺してしまいました。済みません。済みません」
鶴代はそう、低声ながら叫ぶように言って、両手を顔に当てて泣きだした。
「泣かんでもいい。泣かんでもいい」
「…………」
「それで、だれかに殺したほうがいいと勧められたのではないのか?」
「そんなことはありません。自分一人の考えで殺したのです」
若い検事は、彼女の自分に対する好意を感じないではいられなかった。彼女が自分を愛しているからこそ! 彼はそう思った。彼女とともに罪に立とう!
「しかし、その妊娠させた男が、子供を養っていけるだけのものを出してくれたら、殺しはしなかったと思うが?」
「あるいはそうかもしれませんでした。でも、殺したのはそのためではありません」
「では、その妊娠させた男
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