もんでしょうね」
駐在巡査はそう言ってから、巡査部長の前にふた足ばかり歩み寄った。
「部長! だいたいの目星はつきましたよ」
駐在巡査はやや低声《こごえ》で言った。
「火葬にした男の娘というのが、どうも妊娠していたらしいんです。それがなんでもないんですから、こりゃあその娘の産んだ子に相違ないと思うんです」
「それでは、その娘が確かに妊娠していたという証人があるだろう?」
「そりゃあ、あるでしょう」
そこへ人夫が寺から茶を運んできた。
樫の木の下に集まってみなが茶を手に取ったとき、すぐ近くで自動車の警笛が鳴った。警察署長と地方裁判所の若い検事が書記を伴って、現場を臨検に来たのだった。
しかし、残っている問題は鶴代がなぜその嬰児を殺したか? ということであった。彼女が自分の産んだ嬰児を殺したのだということについては、もはやだれも疑いを持たなかった。
検事はまだ非常に若かった。彼は大学を出て就任したばかりであった。本来なら、彼はまだこういう現場へは臨検に来るべきでなかった。ただ、裁判所の都合と、彼の好奇心と、事件がそれほど重大視すべき性質のものでなかったのとの、この三つの偶然が彼
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