をここに臨検させたに過ぎないのであった。しかし、一応調べなければならなかった。そして、その犯罪の動機についても考えてみなければならなかった。
「どうも、この犯罪の裏には情夫《おとこ》があると思うんです」
 若い検事はみなの観察や意見をひととおり訊いてから、それを総合してこう断定した。
「……確かに、その娘が自分の子供を殺したのだというのなら……」
「それはほぼ間違いのないところです。なにしろ、妊娠していましたのがいまではなんでもない身体になっているんですから、産むと間もなく殺して父親の寝床の中へ突っ込んでおいたのじゃないかとも思うんです。あるいは、父親のほうが先に死んだのかもしれません。だれも、いつ父親が死んだものか、いつ子供が産まれたものか、全然分からないんですから」
 駐在巡査はもう一度繰り返して説明した。
「それで父親と娘との間に、なにか変な噂などはなかったのだろうね?」
「それはなかったようです」
「では、確かにこの裏には情夫がいるに相違ないですね。……その娘を妊娠させた男が世間に対して恥ずかしいという気持ちから、娘を唆して殺させた場合と、またはその妊娠させた男ではなく、その娘
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