んで、いっそのこと避病院《ひびょういん》にでも入るようにしてもらったらどんなものかね?」
「おれ、苦しくて苦しくて、避病院にもなにも行かれねえわ。それより、水を一杯《いっぺい》飲ませてくんろ」
父親の吾平爺はそう言って、呻りつづけるのだった。
ちょうど、父親の吾平爺がそうして苦しんでいる最中だった。鶴代にひどい腹痛が来た。陣痛であった。
「父ちゃん! おれも腹が痛くなってきたよう。あう、痛くなってきたよう。父ちゃんのが伝染したのかもしんねえよう」
しかし、爺は呻っていてなにも答えなかった。
「父ちゃん! 痛いよう。あう、痛いよう」
彼女は叫びながら、のたうち回った。彼女はそのうちに目が昏《くら》んできた。そして意識が判然としなくなってきた。何か深い深いところへ落ちていくような気がした。
「こっちへ来う! こっちへ来う!」
遠くの遠くから、そんな声がするような気がした。しかし、彼女はそれから間もなく、なにも分からなくなった
鶴代が深い眠りから覚めたのは、その翌朝だった。足のほうに赤ん坊がしきりに泣いていた。そのためか、父親の呻り声は聞こえなかった。赤ん坊のほうへ近寄ろうとした
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