って、もはや次の野菜をどうすることもできなかった。
 吾平爺は薄暗い小屋の中で寝て暮らした。最初は微《かす》かな風邪らしい熱で、寝るよりほかにすることがないから床に潜り込んだのであった。それがだんだんいけなくなっていった。そして、鶴代のお腹《なか》はひどく膨らんできていた。窖《あなぐら》のような小屋の中で、この不健康な親娘《おやこ》はもはやどうすることもできなくなっていた。一台の荷車を売ったその金が、わずかに二人の生命を繋《つな》いでいるだけであった。

     5

 しかし、吾平爺の病勢はますますいけなくなる一方だった。爺は何度も便を催した。そして、寝床の襤褸《ぼろ》の底で呻《うな》りつづけていた。最初は自分で便所へ立っていたのが、それさえできなくなってきた。鶴代がそれをいちいち始末しなければならなかった。
「お鶴! 済まねえ、済まねえ」
 吾平爺はそう言っては呻りつづけていた。
「済まねえったって、どうにもならねえよう」
 鶴代は励ますという気持ちからではなく、目を瞑《つぶ》るような気持ちで言うのだった。
「父《とっ》ちゃん! なんとかして医者を呼ぼうかね? なんならだれかに頼
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