さをどりを教へけむわれはおぼえぬものおもふこと
わかるると言ふきはまではかくばかり思ふとわれをわれ知らざりき
手ぶり見でまなざしのみを見しわれのいつか覺えしおけさをどりぞ
今はただ心ゆくまで相川の濱にねそべりさて旅立たむ
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 絶えずがらがらやかましく呶鳴りつけて、夜もろくろく眠らしてくれなかつた海は、立つ少し前には大人しくして居りました。
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われにかはりかんしやくもちを發揮せし佐渡が海こそかなしかりけれ
家なき子また旅をせむ古里のごとく靜かに待ちてあれ佐渡
立ちわかれまた歸るべく思へどもおもへども命かぎりありけり
涙など面倒くさし此儘にいづくへなりとわれをもちされ
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 相川を出るその朝から雨が降り出しまして、小木港で船待を五日しました。六日目は暴れのあとでしたけれどもうららかな日が照つて居りました。暴れのあとの斯う言ふ天氣を頭《かしら》日和と佐渡の船場で言つて居ります。
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悲しみをひたにつつみて行くわれを柩に入れて船出せさせよ
わが佐渡よこひしき人ももろともに浪に沈むな船出するとき
佐渡の山こと
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