冬でした。人間が日光から見放されるほど辛いことはないのは誰しも理窟では分かつてゐることですが、毎日毎日の暗い空の下の穴の中のやうな生活、そして夜の電燈にさへ惠まれない島の生活は、またこれから歸つてしなければならないと言ふ考だけで身が竦むやうです。
それでも折折は雲の割目から日光が射すこともあるのです。或時は雪を降らせながら射すこともあります。さう言ふ時の喜びは南の國の人にはとても想像の付かないものです。
餓ゑた雀が山から風を冐して町に集つて來ます。庭でも往來でも無數の雀が遊んでゐます。土地の人は捉まへたら食べてしまふのにも構はず、偶偶の日當りに細目に開けた硝子障子の間から縁に遊びに來ます。或は風と雪とに堪へかねて一寸した隙から飛び込んだ雀が臺處でこぼれ幸を拾つてゐることもあります。
スキイと言ふものが習へるだらうと言ふのが豫想の一つにありましたが、高田と海一つ隔てた此島には思つたほどの雪が積らないので、相川の町の青年會にも一つ備へてはあるが、私の越した前の冬にたつた一囘使用したきりであつたとの事です。同じ島でも風當りの弱い東海岸や、國中と稱する南北兩佐渡の山の間に挾まれた米の出來
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