佐渡が島のこと
江南文三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一|分《ぶ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|分《ぶ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)木つ葉の[#「木つ葉の」は底本では「木つ菓の」]
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 東京を立つたのが震災後の十一月、まだバラツクが十分に建たないうちでした。例年になく夏が長かつた東京でも折折は秋らしい夜も顏を出しかけて居ましたので、私の住んでゐた代代木新宿附近では白地の單衣の儘の人、當時盛に賣出してゐたニコニコ絣を着た人、袷を着た人、セルを着た人、種種雜多な服裝で往來して居ました。燒け出された人達と地方から見舞や見物に來た人達とで、今では三つ四つの子供が遊んでゐる郊外の町が、淺草の仲見世のやうな雜沓でした。捲つた腰は既に下ろして居り、リユツクサツクを脊負つた人も見えなくなつて居ましたが、まだ火傷の痕を濃い白粉で塗り潰した女や、鬘の下から赤黒い引吊の見える女が、どうしたものか急に華美になつた風俗の中に交つて歩いて居ました。
 山の手に黒襟の掛つた着物の人を澤山に見掛けました。毛絲の服
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