へ一杯に詰め込まれた船客が盡く横になつて居ますので這入り場處がなく、やうやくの事で體を丸くして人の足先を顏近く戴いて横にさせて貰ひました。とうとう上陸するまで珈琲一杯貰へず、朝飯を宿で食べたきりで夕方島に着きました。
 島で馬車を寄せて食事をしようとしましたが船の醉は食慾を封じてしまつて居りました。
 船から見た金北山の雪は凄じいやうでした。
 馬車の中でスヱツタを取り出して上着の下に着ました。靴の上にはスパツツをかぶせました。オウヴアシユウズも附けました。
 島の東岸から西岸までの距離は案外短いのに驚きました。
 西岸の町へ來たとき、最早あたりは眞つ暗になつて居ましたが、道はぬかるみで馬車は人を乘せては動けないと言ふので、同勢の三人は下ろされて、道の兩わきの軒下の溝の石をつたはつて歩かせられました。車輪が殆ど泥の中に沒してゐるのです。足元をあやまつた私は膝の邊まで泥にしてしまひました。
 其處を拔けると山でした。恐ろしいでこぼこの峠でした。荷があるので馬車を雇つたのは私達の幸でした。山にはパンクした自動車のタイヤが澤山捨ててありました。自動車に乘つた新潟からの連は途中で人力車で私達を
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