つてゐないものはありませんでした。東京附近の平原に住む女のやうに練馬大根のやうな細い太いのない足は見當りませんでした。
男は新潟で見たやうに外套を二重に着て居るのは見掛けません。足駄の爪掛に毛の着いたのを着て居るのは相當見掛けますが、外套の襟手首などに毛皮を着けたのは一寸見て餘處の土地から來たと感じさせる位で皆無と言つて宜しいが、外套には、女のマントも同樣ですが、必ず頭巾が着いて居ます。外套の丈もマントの丈も殆ど踵まで屆くほどの長さです。
來客があると炬燵のある部屋に案内する。客は遠慮なく炬燵に膝を突込む。炬燵の外に火鉢も出ると言つた調子です。
暖い日の週期が土地慣れない私には却つて辛く感ぜられました。暖い日の間に少し油斷の出た神經を更に復新手の寒氣が襲ふのです。そしてその寒い期間は晝夜の分かちなく冷えるのです。東京では寒く感じたりつめたく感じたりするのが、相川ではただ冷えると感じるのです。坐つて居る疊から骨を傳はつて全身を内部から冷やすのです。一枚の大きな石英岩を土臺としてゐる相川は家の柱の土臺石から凍り切つた地盤一面に總べての生物の温みを吸ひ取るのではないかと思はれるのです。
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