止まらない。しまひに谿川に首と手を突込んで止まる。岩に足をふん張つて持つて來たキヤラメルをしやぶる。
 斯んな事をして歸つて濃い熱い茶を飮んで甘い蒸菓子を食べるのが一番いい冬の暮し方なのです。家の建築が粗末なので酒の飮めない私にはぢつとして居たら凍え死んでしまひさうなのです。部屋の中にゐても耳まで凍るやうなのです。壁は荒壁一枚張です。屋根は木つ葉に石を載せただけです。俗に壁通しと極寒い日を言つて居ます。隙だらけの壁と隙だらけの木つ葉の[#「木つ葉の」は底本では「木つ菓の」]間から粉雪が家の中に降り込んで、場所によつては相當積もるのです。
 いきなり冬を見た私は土地の人の風俗の質素なのに感心しました。夏になつて驚嘆したマイヨオルの作つたもののやうな脚のしつかりと地に着いた體格の女が、寒氣を防ぐためにありつたけの襤褸で武裝して、色の褪めた大シヨオルを頭からかぶつて素足に藁草履で歩いてゐるのです。虱は大抵の娘には附物です。シヨオルをかぶつて居ない女はマントを着てゐます。從つて私の女に對する好奇心は足にだけ集中されました。鋼鐵のやうな彈力を持つた引き緊まつた足首か、青銅のやうな重みのある足を持
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