だったので、機は五百米下二百米の間を飛んでいた為、地上の様子は、河に糸を垂れている人の着物の色迄、瞭り説明する事が出来た。そして作製された一篇の記録は、即時各方面にその真偽を確めるべく電報乃至電話された。
そうしている間に、H署には、次のような情報が蒐集《しゅうしゅう》され、又、細密な物的証拠品が発見されてきていた。そしてそれは、事件を大きく「|絞り開け《アイリス・アウト》」すると重要な材料となっていた。即ち第一に、機体内を綿密に精査して帰った係官は、総てを綜合して、先ず次の如く報告した。
「――機体内に兇器とおぼしき物遺留されず。又被害者の所持品中の折鞄は開放されて打ち捨ててあり、在中品は二三の書類を残して全部抜き去られ所在不明。尚便所内、窓は開放せられ、そこに取りかたづけられてありし座褥型落下傘《ざじょくがたパラシュート》一個紛失」そして最後に最も重大な証拠品たるべき一枚のもみくちゃになった紙片――客室内装備の通話用の紙片――が発見された事がつけ加えてあった。即ちそれには被害者自身の手で、次の如く走り書きされてあったのである。「三枝と言う此の機の機関士が、私を殺すと脅迫している。
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