準1−92−56]《のが》れないだろう」
「アリバイ?」
 池内は愕然とした。
「そうだ、アリバイだ。先ず考えて見給え。事件は空の上で行われた。そしてそこには数百万の人間の中から選ばれた四人しかいなかったのだ。絶対に――。そして誰れも機上の情況を見ていた者はなかったのだ」
「でも私は神に誓って座席から一寸も離れはしなかったのです」
 池内は狼狽した。
「神? だが我々は神にその真偽を糺《ただ》す方法は持たない。兎に角、一人の男は機上から姿を消し、一人の男は惨殺されているのだ」
 そして署長は一枚の紙片を改めて取り上げて読み下した。

[#ここから2字下げ]
  屍体検案書
姓名  秀岡清五郎
記事  旅客機JXAC客席No.[#「No.」は縦中横]3上に於て、航空中死亡す。屍体を検案するに、致命傷は前額部の一創にして、約拳大に亙《わた》って、頭蓋骨粉砕し、脳漿《のうしょう》露出す。他殺と確定。兇器は重き鈍器にして、被害者の不意を見すまし、激しき勢を以て一撃のもとに行われしものと思惟さる。被害者即死。
[#ここで字下げ終わり]

「何と言っても、秀岡氏は他殺されているのだ。被害状態から観
前へ 次へ
全23ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大庭 武年 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング