検事殿、犯人はわかりました。それは練習機からはずれて飛んだ小さな鋼鉄の鋲でした」電話機を投げ出すように置くと池内が叫んだ。「幸いにして私の予想が当った事をうれしく思います。綿井氏は秀岡氏が不慮の死に遭ったのを目撃して、不図悪心を起したのでしょう、神の審《さば》きがすぐある事を知らず……」
5
「いや実際僕は慌てたよ」
晴れた朝のH飛行場の草の上を、池内は三枝と肩を並べ乍ら、ブルンブルン、プロペラアを唸らせている旅客機の方へ歩いて行きつつ言った。――「どうも形勢君に不利なんだからな。然し僕にどうしても想像つかなかったのは兇器だ。君は僕から見て事件から無関係であるとしても、綿井氏が機に乗る前から、秀岡氏に殺意を抱いていたものとは考えられぬ。何故となれば二人は飛行場で初めて顔を合わせた未知同士だったのだからね。だからどうしても、綿井氏が兇器をかくし持っていたとは考えられず、一方狭い機内には何一つとして兇器に利用されるような物はなかったのだ。勿論秀岡氏は鞄以外に所持品の無かった事は誰れだって知っている。僕は結局想像を可及的に拡げてゆくより外に仕方はなかった。即ち一九二八年
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