オランダであったと言う事件、すれ違った機から、その機の附属品が飛んで、他の機の操縦者を傷つけたと言う事件を考え浮べずにはいられなかった。そしてすぐその考えの当っているかどうかを、P民間飛行場に尋ねてみたのだ」
 二人は顔を見合せて微笑んだ。
「然しね三枝」池内は続けて言った。「何が幸いだと言っても、僕に立派なアリバイがあった事だ。若し僕にアリバイが出来なかったとしたら、僕等は什麼《どんな》怖ろしい結果になっていたか知れない。然しそれと言うのも所詮君がDを出る前に、あんな事を僕に頼んだからこそだった。一体、什麼心算で、阿麼《あんな》事を僕に頼んだのだ?」
 三枝は急に顔を赤らめて答えた。
「玲子《れいこ》さん(彼の許嫁《いいなずけ》)が慎三《しんぞう》君(その兄)とその前日より自動車旅行に出ていたのだ。そしてあの日どこかで僕等の飛行機を発見して、下界から旗を振る約束になっていたのだ。僕はそれを注意している筈だったが、秀岡に会ったので、それを君に頼まなければならなかったのだよ……」
[#地付き](「探偵」一九三一年十一月)



底本:「「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9」光文社文庫、光文社

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