た。池内はすっかり自信ある態度で次のようにのべた。
「――今、容疑者は二名います。然し実際の所は三枝は犯人ではないのですが、彼には不孝にしてアリバイがないので証明出来ないでいます。けれど、これを別の方面から推しすすめてみると、或いは自然とそれが証明される結果になるかも知れないと思います。ではどう考えたらいいか? 即ち綿井氏はどうして死んだかと言う事です。署内では第一に自殺説、第二に他殺説となっているようですが、実際に於て綿井氏は自殺する心算《つもり》で飛行機に乗っていたのですし、又金を盗んだとしてはそれが屍体から発見されないのですから、第一の説も考えられない事もありますまい。然し一体自殺するのに落下傘を持ってする人があるでしょうか?」
「なに、第三者が其の男のすぐ後から落下傘を故あって投げたと言えば言えない事はなかろう。その意味から第二の他殺説も有力になるのだ。即ち突き落しておいて、すぐ後から落下傘を落して置くと言う事も、十分考えられ得るからね」
 ――検事の眼には、ありありと、当時の情況がうつる気がするのであった。練習機から見た時には乗客二人は生きていた。がそれから僅か飛んだN原には
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