る関係にあるのか?」
「謂《いわ》ば敵同士でしょうか――」三枝は観念したように小さく答えた。
「私の一家と、秀岡とは姻戚関係にあるのですが、それにも不拘《かかわらず》私の一家は秀岡の悪辣な手にかかって破産せられ、非常にみじめな目に陥入れられたのです」
「秀岡氏と君との間に今朝以来行われたいきさつを話し給え。勿論、飛行中君が便所に行ったとは嘘で、秀岡氏と面談する為めに行ったのだろう」
「…………」三枝は暫く黙然としていたが、あきらめたように口を開くと「或いはそうかも知れません」と悄然と言って、「然し、その嘘は事件が紛糾するのを怖れて口にした迄のものです。何故となれば、私のした事と今度の事とは全く無関係な筈なんですから。実は今朝D飛行場で顔を合わす迄、私は秀岡が乗客になっているとは知らなかったのです。私は秀岡の顔を見ると赫《かっ》となりました。胸の中が沸《たぎ》るような昂奮に襲われて了ったのです。秀岡も駭《おど》ろいていたようです。で、私はさきにも言いましたように、秀岡に対しては非常な怨みを持っていましたし、又困窮している私共一家の為めに、法律上は兎も角、経済的に相当な事をしてもらえる立場
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