ずにはいられなかった。そして遂に茲《ここ》に、犯人は残った二名のうちに限定されてきて了った。即ち、Aの場合か、Bの場合か――?
4
池内は、自分一人になってつぶさに事件を考える、時間と気持の上の余裕を得た。すると彼の胸には、如何にしてもこの事件の謎を自分の力で解決しなくてはならないと言う責任感が湧いて来た。運命的とは言え、自分こそ事件現場にいた唯一の無関係者だ、自分がこれを解決せずに誰れに解決が出来ると言えるであろう。それよりなにより、又自分にとっては、親愛なる三枝を冤罪から助け上げなくてはならぬ義務がある。自分は彼を絶対に信じる。生命を投げ出し合っているエア・メンたちにのみ流れている純真な道徳が、決してそのような犯罪を犯させないであろう事を信じる!――池内は精密に思考をめぐらしてみた。と、又急に思いついた事は、途中で出会ったP民間飛行場の練習機の事である。「そうだ、空中で尠くとも我々以外に我々の機の中の様子を知っている者は、あの機の乗組員だ!」
池内は警察にその旨を通知して、警察からP飛行場に、長距離電話で問い合せてもらった。返事は即ち恁《こ》うだった。
「――旅客機に会ったのは午前十一時二十四分。その時に操縦室に操縦士と機関士が着席し、客室に二名の乗客が練習機の方を窓を開けて眺めていた」
報告を受取ると池内は我を忘れて万歳を心に叫んだ。勿論綿井の屍が発見せられたのは、P民間飛行場よりH飛行場に寄ったN原の上であるから、綿井がその頃まだ、機上にいたのは不思議ではないが、秀岡がちゃんと立派に生きていたとは一体何を意味するであろう。一体三枝が便所に行くと称して去ったのが、十一時十分ごろ。帰って来たのは正確に十一時二十分。そして、練習機と肩を並べたのが十一時二十四分。N原の上を通過したのが十一時三十二分頃であった。さすれば、秀岡の惨殺されたのは、三枝が操縦室に帰って後の事となり、三枝が二度と操縦室から出なかった以上、三枝は秀岡を殺した犯人ではなくなる筈ではないか!
「兎に角、三枝は僕の期待を裏切らなかった」――池内は雀躍《じゃくやく》した。だがそれを地上の人達に証明するにはどうしたらいいのか? 池内は考えざるを得なかった。
がその翌日。
池内は緊張の下に、隠し切れない喜びの顔色を泛《うか》べ乍ら、H警察署の召喚に応じた。今度は相手が検事だっ
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