だ」にある、「火焔太鼓」にある、「佐平次」「白銅」もわけもなくおかしい。「寝床」「らくだ」の彼の独自なギャグや扱い方についてはすでに他に書いたが、「町内の若い衆」の下層街のおかみさんの活写とその警句百出に至っては、ちょっと他に類をみない。あのようなささいな噺を、あのようなおかしい愉しいものにした功績は、永らくこの道に記録されてよかろう。
「強情灸」で灸の熱さを説く男が、
「熱いのなんのってこの間なんか、あまり熱いンでバーッと飛び上がって天井を蹴破ってそのままどこかへ行っちゃった男がある」
なども、彼のギャグのすばらしさの最たるものだろう。だって考えてもみてくれたまえ、化け猫じゃあるまいし、そんな君、天井を蹴破るなんて……。
もしそれ「お直し」に至っては最後近くあの特異な生活の夫婦の愛情に高潮するあたり、劣等感は微塵も起こらず、まさしくモーパッサンあたりの名小説を読むの思いがある。これは不朽の逸品といえよう。大切に綿に包《くる》んでとっておきたい気さえ、私はした。「今戸の狐」ではしがない落語家の生活も千住《こつ》のおいらんのなれの果ての姿も今戸八幡辺りの寒々とした景色とともに、よく志
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