返し繰り返ししてほしかったと思います。が、要するにこののち何回も何回も聴きたい「佐平次」ではあることを申しておきます。
「火事息子」は私たちの心のふるさとだったはるかなる日の下町生活を、郷土の声を蘇らせてくれました。火事のまくらが、「道灌」のギャグと同じちょっと呼吸に損な点があるが(必ず次回にこちらの註文の出し方を掴んでみます!)他はことごとく「大真打」としての芸格あるものでした。先代志ん生にこの演出の速記あれど火消しになった若旦那が夢に母に会って泣いているのを仲間に起こされ堅気に戻れと意見される冒頭など充分にさしぐまれました。人物情景もよく出ていた。たまたま昼間から長田幹彦氏の「蕩児」を読んでいたことも一奇ですが、何にしても私は幼い日の下町を美しく思い出していたのです。古い暖簾、黒塀の質屋、初午の太鼓、いろいろの風物詩がホロホロとうかんできたのです。それだけでたいへん幸福でありました。帰りはみぞれのような黒い雨が降っていました。その中を帰って来て、女房と一杯飲んで寝ました。
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   拾遺寄席囃子



    先代鶴枝

 百面相ではかつて先代鶴枝と死んだ福円遊とにつ
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