事 初代 橘之助」と紫色のスタンプインクが押してあり、内容な年少断髪の高座姿(圓朝賛、圓橘画)とやや老けている時代と、そうして晩年に近いあの姿とである。なつかしい東京の忘れ形見として、いつまでも私は大切にとっておきたいと思っている。
たった一枚、わが愛蔵の音盤はとっちりとん[#「とっちりとん」に傍点]の「あひるの卵」。何よりパチンと卵の殻の破れるその撥《ばち》さばきが至宝である。
同じとっちりんとん[#「とっちりんとん」に傍点]で朝顔の琴の音はあまりにも如実に、三番叟《さんばそう》への鈴音は迫真のなかにさんさんとふりそそぐ春の日、またその日の中に光りかがやく金鈴の色を手にとるように見せてくれた。
※[#歌記号、1−3−28]水戸様は丸に水……という大津絵の「水づくし」も古風で軽妙至極のものだったし、十八番の「狸」には芳藤描く江戸|手遊絵《おもちゃえ》の夢があった。
自ら浮世節家元を唱えていたが、そもそも浮世節とは市井巷間《しせいこうかん》の時花《はやり》唄の中に長唄清元、常磐津、新内、時に説教節、源氏節までをアンコに採り入れ、しかもそれらがことごとく本筋に聴かし得て、初めてその
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