郎、〔バンカラ〕新坊、小亀、先代岩てこ、太神楽の人々の都々逸によろしいのが大分当時はありましたが、これはまた別の機会に申し上げます。
[#改ページ]
名人文楽
一字一画を楷書でいくいわゆる本格の落語家には、気の詰まるほど陰性の芸風の人が多い。反対に、華やかないわゆる「人気者」と称せられる落語家手合いは、描写がなく、心理の運びも拙劣で、どうかすると、雌雄の区別さえつかない人が少なくない。
これを人生にたとえるなら、前者は糠味噌《ぬかみそ》臭い世話女房で、たしかに貞節そのものではあるだろうが、亭主野郎の晩酌の味を決して愉しくさせてはくれなかろうし、後者は逢いつ逢われつしている間こそ無責任で面白かろうが、しょせんは気紛れの浮気おんな、野に置け蓮華草のそしりはまぬかれない。
夫に仕えて貞節専一、しかも紅白粉の身だしなみよろしく、愛嬌こぼるるばかりの世話女房なんてのが、もしあったならば、およそこの人生は万朶《ばんだ》の花咲き匂う。芸の世界においても両者を兼ね備えた、つまり本筋にして眉目麗しく華やかであるなどという人材の登場は、何十年にいっぺんしか約束されない。すなわち「名人」の
前へ
次へ
全52ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング