随筆 寄席風俗
正岡容

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)用《つか》った

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)都家|歌六《うたろく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#歌記号、1−3−28]
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   わが寄席随筆



    大正末年の寄席

     百面相

 かの寺門静軒が『江戸繁昌記』の「寄席」の章をひもとくと、そこに「百まなこ」という言葉がある。「百まなこ」とは柳丸がよく用《つか》った花見の目かづらのようなものだが、これが「百面相」を生んだ母胎だろう。そうして百面相自身も天保の昔には、わずかに瞳と眉と、顔半分の変化をもって、あるいは男、あるいは女、あるいは老える、あるいは稚きと、実にデリケートにさまざまの千姿万態を、ごらんに入れた演技だったにちがいない。だがなるほど、この方がほんとうだ! 魂の問題からいってもずっとほんとうで芸術的だ!
 それが春信や栄之の淡い浮世絵は、ついに時代とともに朱の卑しき五渡亭が錦絵とな
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