ったがごとく、後年眉を彩り、衣装をまとい、惜しみなく顔と五体を粉飾しつくして、やれ由良之助だ! 舌切雀だ! そうしてステッセル将軍だ! と、ずいぶん、お子供衆のおなぐさみにまで、推移していったものらしい。
 しかし、考えると、かえって当初のものの方が、よほどほんとうの嘘のない文明精神の発露であったような気もされる。そうして、世の常の文明なるものも、みんな、このたぐいの、実は進歩だか、退歩だか、まったくもってわからない、いや、進歩でもあり、退歩でもあるもののような気もせずにはいられない……。
 ――ところで、近世の百面相では、なんといっても、先代の松柳亭鶴枝《しょうりゅうていかくし》だった。あのてかてか[#「てかてか」に傍点]にあたまの禿げた、福々しい顔つきの鶴枝はまったく、覚えての上手だった。少し病的だと気になるくらい声がしわがれていた。――一番巧いのはなんといっても、ステッセル将軍だった。それから青い服を着た露助が、撃沈された軍艦で、手をあげて救いを求めている、その絵画的に巧みなポーズも私は今に忘れられない。桃太郎の誕生場をやると、仲見世の何とかいう、今の天勇のもう一つ向こうの通りの
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