鶴屋善兵衛を探すくだりだ。あすこを、やまと(当時、文楽)は、どどいつでやる。※[#歌記号、1−3−28]三人揃って歩いちゃいれど、今夜の泊まりは――ここで、ぐいと調子をあげて、八方へ聞えるように「鶴や善兵衛」と言うんだぞと、兄貴が教える。いい声だ。心得て、やる。ところが歌う本人は※[#歌記号、1−3−28]三人揃って歩いちゃいれど、どこが鶴屋だかわからない[#「どこが鶴屋だかわからない」に傍点]――ここんところがひどくよかった。――その前にまだ、みんなの無筆が表れないで、一人が実は鶴屋の看板の読めないことを白状する。兄貴がさんざん啖呵《たんか》をきる。「べら棒め、けえったら学校へゆけ……――」(この学校という言葉にも彼から聞く時、開化! があった)。相手は恐れ入って「じゃあ、兄ィ、読んでくんねえ」と言う。と「俺も読めない」。相手がまた言う。「じゃあ、東京へけえったら二人で学校へゆこう」云々。
 この「二人で学校へ」も、なんともいえず、おかしくもあり嬉しくもあった。もちろん「とろろん」は圓右もやった。箱根山は山師がこしれえたかときく弥太っ平の馬楽。湯へさかさまに入ると下げる故人小せん。先
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