、宮志多亭の御隠居だった。よっぽど腹を立てているのだろう、着ている革羽織がカサカサ音立てて慄えていた。頭《かしら》の上がりで木やり上手として知られているこの御隠居はまた、雷親爺と仇名された喧《やか》まし屋として文字通りの雷名を仲間うちに轟かせていた。しかもいまやその雷が黒雲踏み外して、真っ逆様にガラガラ下界へ落っこちてきたのだった。
「いい加減にしろイ、大馬鹿野郎」
 目と目があうとすぐいった、ガクガク入れ歯を噛み鳴らしながら。
「……」
 何が何だか分らなくて小圓太はちぢこまった。
「二度……二度上がる奴があるか、手前みてえなセコチョロ[#「セコチョロ」に傍点]が」
 セコとは芸人仲間の符喋で、「まずい」「つまらない」という意味だった。
「な、何だって……何だってヤイ上がりやがるんだ、それもこんな深いところへ何だってオイ上がるんだよ」
 そこらをこづき[#「こづき」に傍点]廻さないばかり笠にかかってきめ付けてきた。
「あいすみません、あとにまだ誰も参りませんし、鯉かんさんがお前上がれとおっしゃったもんで」
 やっと自分の叱られているわけが分って、にわかにオドオド小圓太はいった。
「べ
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