けになって崩れていた。黄ばんだ膿にまじって痛ましく血さえ滲んでいた。
これが、これが、いのちがけでなった落語家さんの手だろうか。
しみじみといま小圓太は自分が、いや自分の「掌」がいとしくなった。いとおしくなった。もし取り外しができるものならその「掌」をやわらかい真綿か何かへシッカリと包《くる》んで、寝ン寝ンよおころりよ[#「おころりよ」に傍点]と子守唄歌いながら毎晩抱きしめて添い寝してやりたかった。
いつか不覚の涙が、キラキラ青い竹箒の柄をつたって午後の日にかがやいていた。
止めようかしら俺、もう落語家を。
思わず小声で呟いてギョッと辺りを見廻した。
三
待て――とそのとき心に叫ぶものがあったからだった。
低いけれど、妙に振り切ってしまえなくなる底力のある声ならぬ声だったのだ。
不思議にその声は小圓太の「心」をシッカリと捉えて放そうとしなかった。
何と説明したらいいだろうこの声この感情――強いていおうなら、好きで好きでならない恋びとと意地で別れてしまおうとするとき、傍からその決心を鈍らせてくるあの未練に似ていた、もちろん十六になったばかりの小圓太、恋の
前へ
次へ
全268ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング